人気シリーズ「質屋からす」新刊刊行記念 著者・南潔インタビュー

2024年2月15日更新

“あなたの大切なもの、高値で引き取ります”がキャッチフレーズの“質屋からす”。イケメンだけどかなり変わり者の店主と、触れることでその“物”の過去が視える従業員のふたりだけで営む店には、ワケアリの品ばかりが持ち込まれて……。私たちが編集をお手伝いしているこの「質屋からすのワケアリ帳簿」シリーズは、読者からも好評で昨年11月には実に4年ぶりの新作が刊行。そこで満を持して、著者の南潔さんにこの作品の制作裏話などを伺う機会をいただきました。本シリーズのファンの方はもちろんのこと、未読の方も是非この作品の魅力に触れてみてはいかがでしょうか?

自分が欲しいと思うか思わないか

自分の物差しで測る店主・烏島

――シリーズも作品数で言うと5作目(1作目が上下巻なので冊数で言うと昨年11月の新刊は6冊目ですが)。質屋「からす」の従業員・千里の過去や、千里と因縁の関係とも言える宗介の家(名家・七杜家)の秘密とか、次々に問題が出てきますね(笑)。そもそも、このシリーズ、質屋を舞台にしたのは、何か理由があったのでしょうか?

南潔(以下、南):この作品は、最初は探偵事務所を舞台にしようかなと思ったんですが、でもそれだとありがちかなと思って“質屋”を思いつきました。質屋だったら、人が物と事件を運んでくるし、店主の趣味が変わっていたらさらに話が広がるかなと思ったんです。

質屋では通常、物に対する一般的な市場価値、査定の基準というものがあるんですが、質屋からすの店主・烏島は、ブランドなどには一切関係なく、これは魅力がある、欲しいと自分が感じたら買う。世間の物差しではなく、自分の物差しで測るということが面白いのではないかと考えたところから、この物語は始まっているんです。実は、最初謎解きを入れるつもりはなかったんですが、なぜか書いているうちに入ってきました(笑)。

――最初謎解きは想定していなかったんですか? それは意外ですね。5作目の「悪を照らす鏡」では、千里の両親の死の原因と考えられることや、宗介の家・七杜家の驚くべき秘密が明かされるなど、作品を追うごとに伏線やその回収的なものが、いろいろ出てきますよね。そういう大きな設定も、最初は考えていなかったんですか?

南:はい、正直言って最初はあまり深いところまでは考えていなかったんです。シリーズとして続くかどうかもわかりませんでしたから、どう転がってもいいように、個々の出来事あまり深くは掘り下げず、大きな流れだけ決めておいて、各巻ごとに事件が起きるという感じで進めてきました。

そんな中でも、伝説的なものは結構好きなので入れたいと思っていたのですが、現代の話なので人々の欲望というか現代病、社会を騒がす時事問題のような形で取り上げてきました。今回の「悪を照らす鏡」では合成薬物が出てくるシーンがあるのですが、世間でも“大麻グミ”が問題になったりして、偶然とはいうものの驚きましたね。

――今、南さんは人々の欲望っておっしゃいましたが、質屋に持ち込まれる品物にまつわるサブストーリーにも、こんなものを売る人がいて、買う烏島がいるということに、毎回驚かされます。あれも、まさに人の欲望ですよね。母親が持ち込んだ自分の子どもが剣道大会で獲得したトロフィーやメダル、何度も結婚を繰り返す男が歴代の妻に贈った結婚指輪などなど、烏島が買い取るものには毎回驚かされます(笑)

南:それは、質屋のシステムというか、烏島の仕事ぶりや好むものの紹介として入れたエピソードなんですが、曰く付きのもの、特に家族のものを売るって、なんとなく“気持ち悪さ”がありますよね? 、家族のもの=自分のもの、つまり家族の所有物だから、法には引っかかりません。それを免罪符にして売るのは、まさに人間のエゴで気持ちのいいものではないなと思ったんです。

人間的な弱さをもったヒロイン・千里の魅力

そして三角関係の行方は?

――このシリーズでは、質屋に持ち込まれる“物”をめぐる事件(?)の顛末のほか、千里、烏島、宗介という三角関係と言っていいんですよね?(笑) その行方も気になるところなんですが、新作「悪を照らす鏡」では、千里と宗介の間に“あっ! これは、もしかして?”(笑)というシーンがありました。あれ、読者はものすごく気になると思うんです。いったいあの時、何があったのか?

南:そうですよね。たぶん、その三角関係がどのようになっていくのか、読者のみなさんは期待して読んでくださっているようです。私は、結構三角関係を描くのが好きで、結果がどうなるかみなさんも気になるでしょうから、焦らすことなく書いていきたいんです。でも、全て書いてしまっては想像の余地がなくなって、読むのが楽しくなくなるかもしれないので、ちょっと余白を残しておくようにしています。

このように小説を書く上で私が意識しているのは、書きすぎないことです。誰が読んでもわかりやすいように書くのはもちろん大事なんですが、説明しすぎるとくどくなる。会話と地の文がほどよいバランスで続いて、読んでいる方のほんのちょっとの想像の余白を残す。それが一番重要かなと思っています。

――その三角関係の行方は、もちろん私もものすごく気になっていて、たぶん南さんの頭の中ではもう決まっているのではないかと思いますが、もちろん今は伺いません(笑)。ただ、千里はどうなんですかね……、今のところ少々どっちつかずというか、烏島の底知れぬ力に畏怖と同時に憧れを抱いているようにも見えるし、宗介の明け透けな? 包み隠すところのないまっすぐな愛情に戸惑いつつも引きずられていっているようにも見えます。

南:たしかに千里は、優柔不断に見えるところがあるのかもしれないですね。今はドラマや映画、小説でも、自分の主張がしっかりした強いヒロインが多いんですが、実際はどうなんでしょうか。強いヒロインって現実的ではないようにも思うんです。むしろ千里は不自然に強くなくて人間らしい弱さを持っていると言うか。そういう優柔不断なところのある女子って、男性にモテるじゃないですか(笑)。私はどちらかというと、烏島や宗介的な思考になることが多くて、千里みたいな女の子が好きなんですよね。自分にないところがあって、理想なのかもしれません。

――今、千里みたいな女の子が好きとおっしゃいましたが、このシリーズには中心となる3人の他に、ゲイバーのママをしながら烏島の調査を助ける鳩子や、文句を言いながらも烏島の依頼を引き受ける研究所職員の守田など、脇役レギュラーもキャラが立っていて面白いです。特に守田は、この最新刊では千里との絡みもあって、興味深かったです。南さんは好きなキャラはいるのでしょうか?

南:3作目の「パンドーラーの人形師」に出てくる大鷹みたいなキャラは好きですね。大鷹は女性嫌いなのですが、女性の醜さを人形にすることで美しいものに昇華するという歪んだ女性賛美が思想の根底にあります。その歪みが生々しく人間的で、とても好ましいと思います。

表紙も全部好きなんですが、この巻は特に印象に残っています。イラストレーターの冬臣さんが人形を描くのが楽しかったと仰っていただいてよかったなと思いました。これからも素敵なイラストを描いていただけるよう、引き続き頑張りたいと思います。

(まとめ)

読者が最も気になっていると思われる千里と烏島と宗介の三角関係。1巻では“北風と太陽”と章のタイトルにもあるように、どちらかというと烏島が太陽、宗介が北風という印象でしたが、それはだんだん変化していって、最新刊ではふたりとも本質では同じではないか? と思わせるところがありました。南さんは、作品を書くときは上から俯瞰して、覗き見しながら書いているという感覚なのだそう。これから、その目にはどんな物語が映るのか期待して待ちたいと思います。

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